専門クリニックによる総合的な管理
甲状腺は代謝に重要なホルモンを分泌する臓器であり、甲状腺疾患は体の健康に大きな影響を与えます。甲状腺疾患の中には、甲状腺機能亢進症(バセドウ病に代表される)や甲状腺機能低下症(橋本病に代表される)、甲状腺腫瘍、甲状腺炎などがあります。これらの病気は早期に発見し、適切に治療することが重要です。
1. 甲状腺疾患の種類と症状
甲状腺疾患の一部を下記にお示しします。それぞれの病態や治療方法に関して、専門的なサポートが求められます。
バセドウ病
甲状腺が過剰にホルモンを分泌する病気で、体内の代謝が急激に高まり、体重減少や動悸、発汗、イライラ、不眠といった症状が現れます。自己免疫疾患が主な原因で、甲状腺を刺激する抗体が過剰に生成されることにより、甲状腺ホルモンの過剰分泌が引き起こされます。薬物療法(抗甲状腺薬)、放射線治療(放射線ヨウ素療法)、手術による甲状腺の摘出などが有効です。
※抗甲状腺薬はバセドウ病の治療として非常に有効な治療薬ですが、副作用が出現する可能性がある薬になります。特に治療開始後2~3ヵ月間は2~3週間に一度受診いただき、副作用出現の有無を確認する必要があります。
下記に代表的な副作用についてまとめましたので、ご参照ください。
◎ 肝機能障害
症状: 発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、腹痛、食欲不振など。
肝機能のチェックが定期的に必要です。
◎ アレルギー反応
症状: 発疹、かゆみ、腫れ、呼吸困難など。
一部の患者には、抗甲状腺薬に対するアレルギー反応が起こることがあります。軽症であれば抗アレルギー薬の併用で経過を見ることもありますが、その判定のためにもアレルギー症状が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師に相談する必要があります。
◎ 白血球数の低下(無顆粒球症)
症状: 発熱、喉の痛み、風邪のような症状、口内炎など。
白血球が減少することによって免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。無顆粒球症は非常に重篤な副作用であるため、定期的な血液検査が重要です。
橋本病
甲状腺が十分なホルモンを分泌できなくなる病気で、体重増加、寒がり、倦怠感、便秘、皮膚の乾燥などの症状が現れます。主に自己免疫によって甲状腺が破壊されることが原因で、甲状腺ホルモン分泌が不足します。甲状腺ホルモンの補充療法(合成甲状腺ホルモン)が一般的な治療法です。
甲状腺腫(甲状腺腫瘍)
甲状腺に腫瘍が発生する疾患で、良性と悪性のものがあります。悪性の場合は早期に診断を受け、適切な治療を行うことが重要です。甲状腺に腫瘍がある場合、まずはその性質(良性か悪性か)を正確に診断する必要があります。診断方法としては以下のようなものがあります。
◎超音波検査: 甲状腺腫瘍の大きさや形状、血流の評価を行います(当院で実施可能)。
◎細針吸引生検(FNA): 腫瘍から細胞を採取し、良性か悪性かを顕微鏡で確認します(必要であれば他院に紹介します)。
◎CTやMRI:腫瘍が大きい場合や周囲の組織への影響が疑われる場合に使用されます(必要であれば他院に紹介します)。
◎血液検査:ホルモンレベルや特定の腫瘍マーカーを調べることがあります(当院で実施可能)。
良性の甲状腺腫瘍
◎経過観察: 小さく、症状がない場合やホルモン異常を引き起こさない良性腫瘍は、定期的に超音波検査を行いながら経過を観察します。
◎薬物療法: 一部の良性腫瘍では、薬物で腫瘍のサイズを小さくする治療が行われることがあります。ただし、薬物療法だけで完全に治療することは難しいため、手術を考慮することもあります。
◎手術療法: 腫瘍が大きくなり、圧迫症状を引き起こす場合や、悪性化のリスクがある場合には、甲状腺部分切除術が行われることがあります。
悪性甲状腺腫瘍(甲状腺癌)
(悪性が疑われる場合、高次医療機関にご紹介いたします)
悪性の甲状腺腫瘍(甲状腺癌)は、早期に発見することが重要です。悪性腫瘍の治療方法は、腫瘍の種類(乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌など)によって異なりますが、主に以下の治療法が考慮されます。
◎手術療法: 甲状腺癌の場合、最も一般的な治療法は手術です。腫瘍を取り除くために、甲状腺全摘術または部分摘出が行われます。手術の範囲は癌の広がりや転移の有無に応じて決定されます。
◎放射線治療: 手術後に残存する甲状腺癌細胞を除去するために、放射線ヨウ素治療が行われることがあります。この治療は、甲状腺細胞が放射線ヨウ素を吸収する性質を利用した方法です。放射線ヨウ素は癌細胞に取り込まれ、内部から破壊します。
◎ホルモン療法: 甲状腺を摘出した後、ホルモン補充療法が必要です。甲状腺ホルモンを補うことで、代謝を正常に保つ治療です。また、ホルモン療法には、がんの再発を防ぐ目的で高用量の甲状腺ホルモンを使用することもあります。
◎化学療法や免疫療法: 稀に、化学療法や免疫療法が必要となることがあります。特に未分化癌など進行の速い癌では、他の治療法と併用されることがあります。
甲状腺腫瘍治療後のフォローアップ
治療後は定期的なフォローアップが必要です。これにより、再発の兆候や治療の効果を確認します。フォローアップには以下が含まれます。
◎血液検査: 甲状腺ホルモンの測定や腫瘍マーカーをチェックします。
◎超音波検査: 手術後の腫瘍再発の有無を確認します。
◎放射線ヨウ素治療後の検査: 放射線治療後は、甲状腺癌細胞が残っていないかを確認するための検査が行われます。
甲状腺腫瘍の治療は、その種類や進行具合によって異なりますが、良性腫瘍であれば経過観察や手術療法が行われ、悪性の場合は手術、放射線治療、ホルモン療法が中心となります。早期発見が重要であり、症状が現れた場合は専門の医師に相談することをお勧めします。治療後も定期的なフォローアップを受けることが、再発予防に繋がります。
甲状腺炎
甲状腺の炎症により、甲状腺ホルモン分泌に異常が生じる病気です。
亜急性甲状腺炎
ウイルス感染が原因とされることが多いです。急性に発症し、高熱、喉の痛み、甲状腺部の圧痛、甲状腺の腫れが出現することがあります。痛みは左右に移動することも特徴的です。また、しばしば一過性に血中の甲状腺ホルモンが上昇し、代謝亢進に伴う動機や下痢、体重減少の症状を伴うこともあります。
鎮痛剤や抗炎症薬(NSAIDs)で症状を軽減し、場合によってはステロイド薬が使用されます。甲状腺機能が正常に戻るまで数ヶ月かかることがあります。
無痛性甲状腺炎
自己免疫反応によって引き起こされることが多いです。一過性の血中甲状腺ホルモンの上昇によって代謝が亢進し、動機や息切れなどの症状を伴うことがあります。亜急性甲状腺炎とちがい痛みの出現はほとんどありません。時間が経過すると、逆に甲状腺ホルモンが不足する状態に移行することがあります。その場合、代謝低下による体重増加、倦怠感、便秘といった症状が現れることがあります。治療としては亢進状態のときは症状を抑える薬を、低下状態のときは甲状腺ホルモンの補充が投与されることがあります。
2. 妊娠と甲状腺機能
甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調節し、胎児の脳や神経系の発達をサポートする重要な役割を果たします。妊娠中の甲状腺機能が正常であることは、胎児の健康的な成長を促進するために欠かせません。特に妊娠初期(最初の12週間)は、胎児の神経系が急速に発達する時期であり、この段階で甲状腺ホルモンが不足すると、発育不良や脳の障害が発生するリスクが高まります。
甲状腺機能異常が妊娠に与える影響
妊娠中の甲状腺機能は、母体や胎児に様々な影響を及ぼす可能性があるため、以下に示す甲状腺機能異常に対して適切な対応が必要になります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足する状態で、妊婦さんに疲れやすさ、体重増加、便秘、冷え症などの症状が現れます。甲状腺機能低下症が妊娠中に放置されると、流産や早産、胎児の発育不良のリスクが高まります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態で、体重減少、動悸、手の震え、イライラ感などが症状として現れます。甲状腺機能亢進症が妊娠中に適切に治療されない場合、流産、早産、胎児の発育不良の原因となることがあります。
妊娠中の甲状腺機能の検査
甲状腺機能に異常が見つかった場合、治療が必要です。特に妊娠中は、医師による慎重な管理が求められます。
甲状腺機能低下症の場合は甲状腺ホルモンの補充療法を行います。適切な量を投与することで、甲状腺ホルモンの不足を解消し、妊娠中の正常なホルモンバランスを維持します。
甲状腺機能亢進症の場合は、副作用などで使用できない理由がない限り抗甲状腺薬による治療法が選ばれます。その際妊娠中に使用可能な薬剤を選ぶことが大切です。妊娠中の薬剤使用については、必ず医師に相談しながら進めることが重要です。
妊娠前の甲状腺機能チェック|不妊症との関連、治療法
妊娠を希望する場合は、妊娠前に甲状腺機能をチェックすることが推奨されます。甲状腺に異常がある場合、妊娠前に治療を行うことで、妊娠中のリスクを減少させ、健康な妊娠をサポートします。また、不妊症に悩む多くの方にとって、甲状腺の機能が重要な役割を果たすことを知らない場合もあります。甲状腺機能異常が妊娠に与える影響について説明します。
甲状腺機能低下症と不妊症
甲状腺ホルモンは卵胞発育や黄体機能に影響するため、甲状腺ホルモンが低下すると、排卵障害が起こりやすく、月経周期が不規則になることがあります。このため、妊娠のタイミングを計るのが難しくなり、不妊症の原因となることがあります。また、甲状腺機能低下症が妊娠に与える影響としては、流産や早産のリスクが高まることもあります。甲状腺ホルモンの補充療法を行うことによって、排卵機能の回復や妊娠しやすい体調を整えることができます。
甲状腺機能亢進症と不妊症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、女性ホルモンであるエストロゲンの代謝が早くなるため、月経不順や排卵障害が引き起こされることがあります。また、妊娠初期の段階ではエストロゲンやプロゲステロンといった妊娠を維持するためのホルモンが重要ですが、甲状腺ホルモンが過剰だと、これらのホルモンの働きに影響を与え、妊娠維持が困難になることがあります。抗甲状腺薬や計画的に放射線治療が行われることがあります。治療後、甲状腺ホルモンのバランスが正常化すれば、妊娠の可能性が高まります。
不妊症でお悩みの方や、これから妊娠を希望する方は、妊娠前に甲状腺機能をチェックすることが推奨されます。たとえ甲状腺機能に問題があっても、早期に治療を受けることで、不妊症のリスクが減少し、妊娠維持にもつながる可能性が高まります。
「妊娠と甲状腺機能」に関する知識は、母体と胎児の健康を守るために不可欠です。甲状腺機能異常は、妊娠前、妊娠中、産後のいずれにおいてもさまざまなリスクに結びつく可能性があるため、定期的な検査と早期の治療が重要です。また、甲状腺疾患は初期段階では症状が軽微な場合も多いため、定期的なチェックと早期の診断が重要です。甲状腺に関するお悩みや疑問があれば、まずはご相談ください。
甲状腺疾患の管理は当院にお任せください
甲状腺疾患は、症状の程度や重症度だけでなく、患者さまの置かれているライフステージを考慮して治療を選択することが非常に重要と言えます。甲状腺疾患に関するご相談や治療方法について、まずはお気軽にご相談ください。